中国進出の日本企業が1万118社に減少した調査で分かる「撤退数」と「純減」の違い

帝国データバンクが9月28日に公表した調査で、中国に進出する日本企業は2026年6月時点で1万118社となりました。2024年の1万3,034社から2,916社、22.4%減少しています。テレビ朝日も9月30日、この減少を報じました。大きな変化ですが、進出企業数の減少を、そのまま中国との取引全体の消滅や、全企業の撤退判断と同一視することはできません。

ニュースを理解するには、何を数えた調査なのか、新しく参入した企業もあるのか、現地に残る企業は何をしているのかを分けて見る必要があります。企業数という入口から、中国事業の再編と市場の見極めを整理します。

2年間の減少とピークからの減少は別の数字

今回の1万118社は、前回の2024年調査より22.4%少ない水準です。一方、最多だった2012年の1万4,394社と比べると、減少は4,276社、29.7%になります。「2年間で約2割減」と「ピークから約3割減」は、比較している時点が違います。どちらも同じ調査の数字ですが、期間を省いて読むと変化の速度を取り違えるおそれがあります。

また、9月28日は結果の公表日であり、企業数の把握時点は6月です。9月末までのあらゆる企業動向が反映されたリアルタイムの数字ではありません。企業の進出や拠点閉鎖は継続的に起きるため、公表日と調査時点を分けることは、ほかの企業統計を読む際にも役立ちます。

「2,916社が撤退した」とは言い切れない

帝国データバンクは、前回調査から新たに進出した企業を1,221社、拠点閉鎖などの「撤退・所在不明」を4,137社としています。差し引きすると2,916社の純減です。つまり、総数が減る一方で、新しく中国に拠点を設ける企業も存在しています。

重要なのは、「撤退・所在不明」という集計区分です。確認された拠点閉鎖だけでなく、所在が把握できなくなったケースも含むため、4,137社すべてについて、同じ理由で撤退を決めたと説明することはできません。純減の2,916社も、撤退が確認された社数そのものではありません。数字の名称まで読むことで、実態以上の断定を避けられます。

中国に進出する企業をどう数えているのか

調査は帝国データバンクの企業データベース、信用調査報告書、各社の公開情報などを基にしています。現地法人や関係会社の設立・出資、駐在所や事務所の設置などを通じて中国に進出する日本企業が対象です。香港、マカオ、台湾は今回の集計に含まれません。

したがって、中国企業から商品を輸入しているだけの企業や、拠点を持たずに中国へ輸出する企業をすべて数えた調査ではありません。また、日本企業の社数と現地の工場数、店舗数、従業員数、投資額はそれぞれ別の指標です。一つの企業が複数拠点を持つ場合もあるため、進出企業数が22.4%減ったことから、工場や投資額も同じ割合で減ったとは推定できません。

生産拠点と販売市場では判断材料が違う

企業が海外に拠点を設ける目的は一つではありません。部品や製品を作って第三国へ輸出する生産拠点と、中国の顧客に商品やサービスを提供する販売拠点では、収益を左右する条件が異なります。帝国データバンクは、低コスト生産だけでなく、高付加価値製造や販売、研究開発などへ進出目的が変化していると分析しています。

この違いを一般的な事業の仕組みから考えると、中国で生産して米国へ販売する企業には、輸出先の関税や物流条件が重要になります。一方、中国国内で販売する企業は、現地の需要や競合商品との違いを強く意識することになります。同じ国の事業でも、仕入れ先、顧客、製品、技術によって採算の条件は変わるということです。

別の調査では「現状維持」が最も多い

ジェトロが2026年3月に公表した中国編の調査では、今後1~2年の事業展開を「拡大」とした企業は21.3%、「現状維持」は64.3%でした。「縮小」と「第三国・地域への移転・撤退」の合計は14.4%です。これは2025年8~9月に実施した調査で、中国進出日系企業791社の回答をまとめたものです。

帝国データバンクの企業数調査とは対象も調査時期も質問も違うため、数値を直接足し合わせることはできません。それでも、企業数の減少という動きと、回答企業の多くが現状維持を選ぶという結果が併存していることは、一方向の説明では捉えにくい状況を示しています。

ジェトロの同じ調査では、2025年の営業利益を黒字と見込む企業は63.2%でした。黒字見込みがあることと、将来の追加投資に積極的であることは別です。現在の事業が利益を出していても、将来の競争や需要を考えて規模を維持する判断はあり得ます。逆に、新分野への参入を選ぶ企業もあり、個社の条件を見ることが欠かせません。

残る企業は競争の中で何を変えているか

ジェトロが8月24日に公表したヒアリングでは、中国で黒字を見込み、拡大または現状維持を選んだ企業のうち28社を対象に聞き取りを行っています。対象を絞った調査のため、中国にあるすべての日系企業の代表像とはいえませんが、現地企業との競争、差別化、販路開拓に取り組む事例が示されています。

ここから考えられる論点は、単に拠点を残すか閉じるかだけでなく、何を現地で担うかという機能の再設計です。大量生産を担う拠点と、顧客対応や技術開発を担う拠点では必要な人材や投資が違います。複数国に役割を分ける場合にも、供給の安定性だけでなく、移管費用、品質管理、納期などを考える必要があります。

調査結果を企業の判断に当てはめる際の注意

今回の結果だけを使って、ある企業が中国事業を減らした理由を説明することはできません。個社については決算説明資料や事業再編の公式発表を確認し、会社が公表した理由と、調査会社が全体の背景として挙げる要因を区別する必要があります。国全体の傾向を、特定企業の動機へそのまま置き換えないことが重要です。

また、拠点の統合で企業数や拠点数が減っても、残った拠点の活動が増える場合は考えられます。逆に、拠点は維持していても、売上や人員を縮小することがあります。今回の集計が明らかにした進出企業数は重要な指標ですが、事業の大きさや利益を測る指標ではありません。

今後の報道では「企業が何社減ったか」とともに、「どの機能をどの国へ移したか」「現地で誰に販売しているか」を確かめると、供給網と市場戦略の変化を分けて理解できます。中国との関わりは、進出の有無だけで判断できない複数の商流から成り立っています。

今後は企業数に加えて事業の中身を見る

今回の調査で確認できるのは、対象範囲の進出企業数が大きく減ったという事実です。その理由をすべての企業について一律に確定する資料ではありません。今後は、企業数の推移とともに、現地売上、投資、拠点の役割、進出先の分散などを確認すると、事業再編の実像に近づけます。

「中国離れ」という言葉は変化を短く伝えますが、新規参入と継続事業も同時にあります。公表された数字の範囲を守りながら、撤退、維持、拡大の異なる判断を読み解くことが、このニュースを理解する要点です。

参照資料

  • 中国進出動向調査(帝国データバンク、9月28日)
  • 海外進出日系企業の調査解説(ジェトロ、3月25日)
  • 中国市場と競争対応(ジェトロ、8月24日)
  • テレビ朝日の9月30日報道

※2026年9月30日時点で確認できた情報に基づき作成。計算例と論点整理は、資料の事実を踏まえた本記事の解説です。